第2回企画展 (平成11年11月13日~12月12日開催)
「亘 セン幽」-幕末の絵師・絵図師-


 


展示内容

 第2回企画展として「亘 セン幽」[わたり せんゆう]という幕末水戸藩の絵師にスポットをあてました。亘セン幽(1810~1887)は、若林村(わかばやしむら)、現在大宮町(おおみやまち)の人で、水戸藩の絵師である萩谷 セン喬に師事し、密画を得意としたといわれています。特に当館所蔵の「好文亭四季模様之図」(こうぶんていしきもようのず)や「祇園寺地中全図」(ぎおんじじちゅうぜんず)は大作です。しかしこれまで、一般にほとんど知られておらず、またその作品の所在がわかりませんでした。この企画展では、セン幽の作品21点、関係資料19点をもとに、「絵師として」「絵図師として」「縄打図(なわうちず)」「近世の村絵図」とコーナーを4部構成としました。

 セン幽の作品は、竜虎・鷹(たか)・梅などの屏風絵や正月神、恵比寿・大黒など年中行事用の掛軸、日本画と絵図師の手法をミックスした絵画、そして水戸藩の天保検地にともなう村絵図等の作成には絵図師として活躍し、各村から依頼されてすぐれた業績を残しています。当館では、このような幕末・明治期に大いに活躍しながらも、まだ知られていない人物を見出し、展示を通し紹介したいと考えております。

展示調査で判明したこと

 これまで萩谷セン喬の作品とされていた大作「偕楽園図」が実はセン幽の絵で、その製作過程がわかったこと、村絵図類の作成には15年も要し、約2000枚以上も描いていること、水戸藩の帖冊仕立て(冊子になっており普通の場合は一枚である)の方法は、1784(天明4)年にまでさかのぼること、全国でも珍しいという縄打ち図が水戸藩内6ヵ村分、8点も発見されていることがわかりました。

展示の豆知識

絵図師(えずし):
藩主が領地内の土地農民に対する年貢を収めさせる目的で、土地の良し悪しや収穫高、耕作者を調べることを検地といい、この調べたことを検地帳に記録させました。この作業をしたのが絵図師です。ちなみにセン幽は、絵図師としては「絵図師僖左衛門」と署名し「セン幽」とは用いていません。

縄打ち図:
検地の時に役人が縄をつかって土地の大きさ・位置、形等を調べている状況を描いた絵図をしめします。

セン幽へのファンレター

 この企画展中に、80歳の女性の方からハガキが突然届きました。文面にはこのようなことが書かれていました。

 「とても素晴らしい展示をありがとうございました。どうしても我慢できずバスで3回目の入館をし亘氏の作品を眼底に焼きつけました。動けなくなるほど、ホレボレする絵に出会えたことに感謝します...(略)」。

 私達学芸員は、このようなお客様の声に支えられ、仕事の活力へとつながっていくのです。ありがとうございます。